1. どこにあるのか?

電子回路の例(wikipediaより)
クエン酸回路は電子回路のような実態はありません。

クエン酸回路(wikipediaより)
上の図のような、細胞内で起こる反応の連鎖をクエン酸回路と言います。
なぜ回路という名前が付いているのでしょうか?
図の一番上にクエン酸ができています。その手前がオキサロ酢酸となっていて、その手前がL-リンゴ酸です。
オキサロ酢酸がクエン酸になる反応から始まって、いろいろな反応の結果、L-リンゴ酸からまたオキサロ酢酸ができていて、反応がぐるぐる回転するので、回路という名前が付いています。
クエン酸回路はいろいろな別名があり、その中の一つにTCAサイクル(tricarboxylic acid cycle) というものがあります。オキサロ酢酸から始まって、またオキサロ酢酸に戻ってくるところが周回、サイクルということになります。
他に同様の言葉として尿素回路などがあります。
解糖系というグルコースとか糖がエネルギーを取り出されながら他の物質に変換されていく過程もあるのですが、これは反応してできる物質がグルコースに戻らないため、回路という名前になっていません。
実際、この反応が身体の中のどこで起こるか?ということですが、細胞内のミトコンドリアの中の、マトリックス(matrix)と呼ばれる部分で起こるそうです。(以下リンク参照、看護roo)
https://www.kango-roo.com/learning/2297
2. クエン酸回路の役割
山本先生のご本にATPを作り出す、と書かれているので、そのように理解しておきましょう。
上の図ではATP産生は回路のちょっと外、図の上部、ピルビン酸がオキサロ酢酸になるところでATPが作り出されています。回路右下、スクシニルCoAからコハク酸ができるところはATPではなく、GTPが作り出されています。(以下のwikipediaのサイト「役割」では、動物ではGTP、植物、原核生物ではATPと書かれています。)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%82%A8%E3%83%B3%E9%85%B8%E5%9B%9E%E8%B7%AF
3. 実際のところ
クエン酸回路の各反応は酵素によって促進されています。
例えば、オキサロ酢酸とアセチルCoAが、クエン酸とCoA (CoAはコエンザイムA、補酵素A、補酵素は酵素を補助する役割)に変化する反応は、クエン酸シンターゼという酵素が働いて起きる反応になります。(上記リンク wikipedia参照)
つまり、クエン酸回路が存在する、ミトコンドリア中のマトリックスには、クエン酸回路の各反応を促進する酵素がたくさんある場所、ということになります。
さて、クエン酸回路を構成する各酵素(8種類くらい)ですが、上図のように、丸く並んでいるのでしょうか? そうではありません。ただ、各酵素がばらばらに細胞液の中に浮かんでいるだけです。
例えば、オキサロ酢酸とアセチルCoAが、クエン酸とCoAに変化する反応が起きた後、次はアコニット酸ヒドラターゼという酵素の反応の順番となり、クエン酸がアコニット酸ヒドラターゼまでたどり着く必要があります。
クエン酸は、どのようにアコニット酸ヒドラターゼにたどり着くのでしょうか?誰がクエン酸を運ぶのでしょうか? どうやってアコニット酸ヒドラターゼ、酵素がある場所に到達するのでしょうか?
答えは、なんと、たまたまです。細胞液のブラウン運動でクエン酸はランダムに移動し、移動した結果、たまたまアコニット酸ヒドラターゼにたどり着くとクエン酸がcis-アコニット酸に変化する反応が起きます。
生物は、このような、ゆるい、というか、不安定な、というか、「もうちょっと設計ちゃんとした方がよかったんちゃう?」という要素をたくさん持ったシステムです。
私はここに、「命があるから、生物の中の仕組みはちゃんと機能している」と感じます。
補足(中学生が読むことを想定して)
- グルコース:ブドウ糖のこと。グルコースはじめ、スクロース(ショ糖、砂糖の化学上の名前)、果糖(フルクトース)などは糖類といわれ、栄養価がある。つまり体内で分解されてエネルギーとして使われる。このような糖が分解、変換されてエネルギーを取り出される過程を現したのが解糖系。
- ATP:アデノシン三リン酸。細胞内で使われるエネルギーの元となるような物質。筋肉の収縮などで消費される。RNAの原料にもなる。
- GTP:グアノシン三リン酸。主として細胞内シグナル伝達やタンパク質の機能の調節に用いられる物質。RNAの原料にもなる。
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